先生からのメッセージ

松井絵美先生

2009年2月28日

数年前に訪れたパラオの話です。ミクロネシアの島国で、グアムから2時間ほどのところに位置します。首都コロールからボートで約2時間行ったところにある、第2次世界大戦の激戦地として知られるペリリュー島に滞在しました。北部の移住区を除けばマングローブやジャングル、大自然の残る南北に長い島です。ダイビングを楽しんだあと自転車を借りて、一緒に行った友人と南北約8キロの島を探検しようということになりました。目標は最南端にあるオレンジビーチというところにしました。 まずは走り出して数分後、茂みの中から野良犬数匹が登場。皆さんは野良犬に追っかけられたことはありますか!?“恐怖”の一言です。鋭い牙をむき出しにして狼のごとく吠えながら全速力で追ってくるのです。のび太の気持ちがわかりました。私たちは競輪選手のように猛スピードでペダルをこいで、何とか逃げ切りました。 移住区を抜けてジャングルに突入。ジャングルといっても舗装はされています。ところどころに残る防空壕などの戦跡をみながら、私たちは大自然を満喫しペダルをこいでいました。ところが、5キロくらい行った地点で状況は変化してきました。南中高度は最高潮、強烈に照り付けてくる日差しに私たちの水分は急速に奪われ、足も少しずつ重くなってきました。行けども行けどもジャングル。人間も車も通りません。しかも大問題が発生、水がなくなってしまったのです。もちろん自動販売機なんてあるはずもありません。その地点から引き返すことは不可能と判断し、助けを求めて民家を探すことにしました。すると、幸運にも人間に遭遇したのです。地元住民らしく、木陰に車を止めて休憩しているようでした。私たちはその男性に水を乞いました。男性は車のトランクを開き、中から大きな水のボトルを取り出し、気前良く私たちに水を振舞いました。助かったと思った瞬間、私の背筋は凍りつきました。見たのです!!トランクの中に無造作に置かれた黒く光る物体、拳銃を…!!その瞬間、“お水のお礼を行って去ろうと後ろを向いて数歩いたときに、この拳銃によって息の根を止められるに違いない”私はこの妄想に取り付かれてしまいしました。きっと顔面蒼白だったでしょう。それに気づかれないよう平静を装い、お礼を言って立ち去りました。その男の射程から外れたときは、九死に一生を得た思いでした。 結局その後オレンジビーチまで行き、調子に乗って海水浴を1時間ほど楽しみました。ちなみに名前の由来は、戦争時アメリカ軍兵士が上陸の際、大量に血を流してオレンジ色に染まっていたからだそうです。透き通る水、美しい珊瑚を見ていると、戦争があったことが信じられない気持ちになりました。十分に海水につかって体を清めたあと引き上げることにしたのですが、復路は地獄絵図でした。けいれん、脱水、悪寒、いわゆる熱中症です。とにかく自転車をこぎ続けましたが、意識は朦朧としていました。宿に着くとすぐにベッドに倒れ、朝までうなされ続けたことを覚えています。今こうして語る機会が与えられ、あのときの苦しさも無ではなかったと思っています。

ページの先頭へ戻る