「足音の話」 權正 俊幸先生
2007年10月12日
あれは私が横浜で教師をはじめたばかりのことでした。教室は横浜駅から歩いて10分くらいのにぎやかな場所にある小さな4階建てのビルにありました。ビルの中には他のテナントは入っていなく、1階に教務室(学校の職員室のようなもの)があり、2階から4階がすべて教室になっていました。
私がこの教室に配属される前から「授業後、誰もいない教室から足音が聞こえる」「帰るとき、外から教室の窓を見ると人影が見える」など変なうわさを聞いていました。これが本当だったのです。
ある寒い日の夕方、あたりが暮れかかっている頃、私ともう一人の先生が1階の教務室で2時間後に始まるテストの準備をしていました。すると、ランドセルを背負った女の子が勢いよく階段を駆け上っていく姿を見かけたのです。先生たちは「テストの準備をしているからまだ教室に入ってはだめだよ」と言いながら女の子を追いかけて2階へ上がったのです。しかし、そこには誰もいません。3階・4階も探しましたが誰もいないのです。先生たちは「おかしいな」と思いながら、とりあえずテストの準備を続けました。
テスト終了後、生徒たちがみんな帰った後、5人の先生が残っていたので、夕方の女の子の話をしていました。すると...2階から足音が聞こえたのです。ドキッとした先生たちはすぐに教室に駆け上がり、誰かいないか探したのですが、誰もいません。教務室に戻ってきて「さっきのは何だろう」などと話していると壁に掛けてあった絵が、ガタッと音を立てて落ちたのです。さすがに怖くなってその日はすぐに帰りましたが、同じようなことがたびたび起こりました。
今、そのビルは焼き肉屋さんになっています。今でも足音は聞こえるのでしょうか?