先生からのメッセージ

早川千信先生

2008年7月5日

ターボル(チェコ) プラハからバスで南に1時間半ほど行ったところにターボルという町があります。戦いのために設計されたこの小さな町を今回は紹介します。 image027.jpg プラハからのバスを降りて少し歩くと小高い丘の上にターボルの旧市街地があります。ここは15世紀にチェコで起こった宗教革命‘フス戦争’の軍事拠点であった場所。古い石を積んだ城壁で囲まれたこの町には、まっすぐで見通しのよい道は皆無で、全ての道は細くて入り組んでいる。どの道も先はかぎ状に曲がっていて、方向感覚を失ってしまい町全体が巨大迷路のようだ。なるほど、敵もこの町に入ると身動きが取れなくなるのがわかる。建物も中世そのままの姿で残っているのでその風景の中の路地の向こうに敵を待ち構えたターボルの市民戦士の姿を簡単に想像することができる。…ここで鬼ごっこ(もしくはかくれんぼ)をしたらさぞかし面白いんだろうな…!なんて思いながら(鬼にはなるのはごめんだけど)。 同じ場所をなんども迷いながら歩いていると全ての路地を通ったのではないかというくらい小さな町なので次第にやることがなくなってしまう。町はとってもひっそりとしていて一週間もいたら飽きてしまいそうだ。とりあえず、町の中心にある教会に入ってみる。誰もいない…。外は雨も降り出しこの町に来たことをちょっぴり後悔しながら真っ暗な教会で何をしようか悩んでいると、すぐ後ろに老婆が立っていた。気配がなかっただけに背筋が凍り、慌てて教会を出て小さなレストランに入る。チェコ語はよくわからないのでお勧めされたものを適当に頼んで時間を潰す。もちろんビールも忘れずに(チェコはビールがとっても有名。実はあの淡色のピルスナーはチェコが発祥って知っていました?)。レストランで時間を潰した後も特にやることがない。とりあえず教会に戻ってみる。少し酔って勢いづいていたのもあって町一番高いこの教会の塔に上って町を見下ろしてみようと思いつく。入り口は開いているものの真っ暗だ。とりあえず通りがかりのおばちゃんに教会塔に上れるか聞いてみると今はまだ、シーズンではないから上れないとのこと。じゃあ、この町には他に何か面白いものがあるのか聞いてみると、そのおばちゃんはふと上を見て『あれ!??なんで塔の窓が開いてるいんだろう???誰かいるかも。行ってみたら。』と薦めてくれた。 教会のらせん階段は真っ暗でとても狭くかなり怖かったけど好奇心に負けて上ってしまう。ひたすら、ぐるぐるぐるぐると階段を上がり、たまにある石の隙間から差し込む光だけを頼りにひたすら上に。教会塔のむき出しの大きな鐘の裏(これはなかなか興味深かった!!)を通り過ぎたころには、上にいるはずの人が幽霊だったらどうしようと急に不安になりながらも、今更、後戻りできないと勇気を振り絞って更に上る。天辺についたところに小さな木の扉があり、中から優しい音楽が聞こえてきた。なんとなく安心して扉を開けてみたらピノキオに出てくるゼベットじいさんのようなおじいちゃんがエプロンをつけてひとり何やら細かい作業をしていた。ずらした老眼鏡の隙間からちらりと私を確認だけしてまた作業を続けてしまった。その小さな小部屋の壁には大量に集められた年代ものの切手が飾られ、売られていた。その中で一番気に入ったものを一つ選んで購入する際に話しかけてみた。ゼベットじいさんは『3日前まで教会塔は閉じられていて、あなたが今シーズン最初のお客さんだよ。』と教えてくれた。何となく特別な気持ちになって小部屋の中から窓の外を眺めていると、ゼベットじいさんはここが一番見晴らしいいよと、古くて柔らかい木の椅子を持ってきてくれた。 外はすっかり晴れ上がっていて風が心地よかった。

ページの先頭へ戻る